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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)7897号 判決 1980年8月25日

原告 エアロマスター株式会社

被告 国 更生管財人 吉田訓康

主文

一  被告は原告に対し、金三三五三万七〇〇〇円及びこれに対する昭和五四年一二月九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

一  請求の趣旨

主文と同旨の判決及び仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言(原告の全部又は一部勝訴で仮執行宣言が付される場合)

(当事者の主張)

一  請求原因

1  エアロマスター株式会社(以下「本件更生会社」という。)は、昭和五〇年二月一〇日大阪地方裁判所において更生手続開始決定を受けたが、昭和五一年一〇月二〇日及び同月二五日同会社振り出しの右両日を満期とする手形を不渡りとして再倒産した。原告は同月二六日本件更生会社の更生管財人に選任された。本件更生会社の資産及び負債は、遅くとも昭和五四年二月一六日以降現在にいたるまで、共益債権の支払いに充てることのできる一般財産の額が多く見積つても六億二七〇〇万円であるのに対し、共益債権の額が一四億六九〇〇万円であつて、会社財産をもつて共益債権の総額を弁済するのに足りない状況にある。

2  ところが、本件更生会社に対する国税につき徴収権限を有する大阪国税局長は、前記更生手続開始決定当時既に納期限の到来していた本件更生会社に対する更生債権である源泉徴収に係る所得税・法人税・物品税及びこれらの各附帯税(以下「本件租税債権」という。)の滞納処分として、昭和五四年一一月一四日本件更生会社所有の別紙目録記載の土地建物を公売に付し、その後右土地建物の換価代金三三六一万円のうち三三五三万七〇〇〇円を本件租税債権の内金に対する配当金として取得した。

3  更生手続においては、共益債権は更生債権及び更生担保権に先だつて弁済するとされているが(会社更生法二〇九条二項)、これは、共益債権が単に時間的に更生債権及び更生担保権より先に弁済を受けうるのみならず、権利の順位において更生債権及び更生担保権より優先的に弁済を受けうることを規定したものと解すべきである。そうすると、会社の一般財産が不足して共益債権の総額を弁済するのに足りない場合には、共益債権につきまだ弁済しない債権額の割合に応じて弁済するとされているから(同法二一〇条)、共益債権に劣後する更生債権に対して配当又は弁済をなす余地がなく、更生債権者は会社の一般財産からの配当又は弁済を受領する権限を有しないというべきである。したがつて、会社の一般財産が共益債権の総額を弁済するのに足りない本件更生会社の更生手続においては、更生債権たる本件租税債権の債権者である被告は、本件更生会社の一般財産である前記土地建物の換価代金からの前記配当金を法律上の原因なくして受領したというべきであるから、本件更生会社の更生管財人である原告に対し、右配当金相当額三三五三万七〇〇〇円を不当利得として返還すべき義務を負うといわなければならない。

4  よつて、原告は被告に対し、不当利得金三三五三万七〇〇〇円及びこれに対する被告への訴状送達の日の翌日である昭和五四年一二月九日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1・2の事実は認める。

2  同3の主張は争う。

3  会社更生法は、更生債権については原則として更生手続によらなければ弁済等のこれを消滅させる行為をすることができないとしながら(同法一一二条本文)、租税債権については、その滞納処分の続行が許される場合はこの限りでないとして(同条但書)、右滞納処分続行の結果得られる金銭を更生手続によらないで債権に充当することを認めている。そして、同法は、更生手続開始決定があつたときは決定の日から一年間更生債権に基づく会社財産に対する国税徴収法による滞納処分をすることができず、既になされている処分は中止するとしているが(同法六七条二項)、同条三項の規定に基づく右期間の伸長又は同条六項の規定に基づく中止した滞納処分等の取消がなされない限り、右一年の期間経過後新たに滞納処分をなし、又は既にされている滞納処分を続行することは禁止していないことが明らかである。したがつて、期間の伸長も中止した滞納処分等の取消もなされていない本件においては、大阪国税局長による前記公売処分及び配当金取得は、いずれも本件更生会社に対する更生手続開始決定後一年以上経過した後になされたものであつて、まさに法律上認められた当然の権利行使というべく、被告に不当利得があるとする原告の主張は失当である。

(証拠)<省略>

理由

一  請求原因1・2の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、更生手続における共益債権は、更生債権とは異なり(会社更生法一一二条)、更生手続によらないで随時弁済するとして(同法二〇九条一項)、弁済の時期・方法・範囲につき更生手続ないし更生計画による規制を受けないこととされるほか、更生債権及び更生担保権に先だつて弁済するとして(同条二項)、会社の一般財産につき更生債権及び更生担保権に先だつ優先弁済請求権を認められているものと解すべきである。さらに、更生手続中において、会社の一般財産が共益債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになつたときは、共益債権はまだ弁済しない債権額の割合に応じて弁済するとされていることからすると(同法二一〇条)、右のように会社財産不足が明らかとなつた場合、会社の一般財産は共益債権者に対する平等弁済の原資とされ、共益債権者に劣後する更生債権者及び更生担保者が一般財産から弁済等債権の満足を受けることは許されないものといわなければならない。

もつとも、更生債権たる租税債権は、滞納処分又はその続行が許される場合に更生手続によらずに債権の満足をうることが認められ(同法一一二条但書)、しかも、更生手続開始決定に伴う新たな滞納処分の禁止又は既に開始されている滞納処分の中止の期間が原則として一年間に限定されていることからすると(同法六七条二項)、右期間の伸長(同条三項)又は中止した滞納処分の取消(同条六項)がなされない限り、更生手続開始決定から一年を経過した後は、新たに滞納処分をなし、又は中止していた滞納処分を続行してその債権の満足を受けうることを同法が予定していることは明らかである。

しかしながら、同法二一〇条は、会社の一般財産が不足し共益債権の総額を弁済することさえできなくなつた場合において、共益債権は債権額の割合に応じて弁済する旨定めているところ、同条の効果として、共益債権の随時弁済の原則(同法二〇九条一項)は停止され、それに伴つて共益債権に基づく強制執行・仮差押・仮処分、一般の先取特権に基づく競売法による競売及び滞納処分が許されなくなるとともに、更生債権について更生手続によらないで債権の満足をうる前記例外的な場合(同法一一二条但書)にあつても、財産不足が明らかになつたあとは、弁済等更生債権を消滅させる行為が禁止されるのであり、したがつて、更生債権たる租税債権に基づき新たに滞納処分をなし、又は中止していた滞納処分を続行することは許されないものと解すべきである。

これを本件についてみるに、前記争いのない事実、成立に争いのない甲三号証、五号証、弁論の全趣旨によると、本件更生会社は、昭和五二年五月一〇日ごろからその一般財産にては共益債権の総額を弁済するのに足りない状況にあることが明らかであつて、右状況は当審における口頭弁論終結時まで変わつていないこと、本件租税債権につき徴収権限を有する大阪国税局長は、本件更生会社に対する更生債権である本件租税債権に基づく滞納処分として、昭和五四年一一月一四日本件更生会社の一般財産である別紙目録記載の土地建物を公売に付し、同月二九日その換価代金のうち三三五三万七〇〇〇円を本件租税債権の内金に対する配当金として取得したことが認められる。そうすると、被告には右のとおり滞納処分をなして配当金を取得する権利のないことは既に述べたところから明らかであつて、被告は、法律上の原因なく、右配当金三三五三万七〇〇〇円を取得し、本件更生会社の会社財産に同額の損害を与えたものというべきである。

三  以上のとおりであつて、本件更生会社の更生管財人である原告が被告に対し、不当利得金三三五三万七〇〇〇円及びこれに対する被告への訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五四年一二月九日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、仮執行宣言の申立については、本件について相当でないと認めるのでこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 金田育三 森真二 中谷雄二郎)

(別紙)目録<省略>

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